第26話 その6

ザリザリ 戸をこする音が聞こえ 羊飼いの少年はゆっくりと開けた
すると そこには小さい羊が立っていた
小さい羊は羊飼いの少年へ近づくと めぇ と鳴いてその靴を噛んで引っ張ろうとした
羊飼いの少年は 小さい羊の後へついていくと 羊の群れが皆立っていて 羊飼いの少年を見つめていた
それはまるで軍隊が整列して微動だにしないように 指揮者の方を向いて黙しているように 羊たちは羊飼いを見ていた
小さい羊は 羊飼いの少年を見上げて めぇ と鳴いた
どこへでもついていきます と言っているかのようであった
少女は言った
あなたの子たち あなたの家族は すでに準備ができているようね
あなたはどうなのですか
羊飼いの少年は 少女たちに向き直った
少女は続けた
私たちは 私たちを見つけ出してくださった方のことばのとおりに歩み そしてあなたを見つけました
あなたも あなたのなすべきことのために 歩を進めなさい
恐れることはありません
この子たちを養い守っているのは あなたではなく あなたをも養い 日々育ててくださっている方ではありませんか
あなたに力を与え 分別を与え 彼らを心にとめることのできるほどに地境を広げてくださったのは その方ではありませんか
あなたはあなたの道へ進みなさい
安心しなさい 彼らはあなたの後をついていき あなたが託したものについていくのですから
小さな羊は もう一度 めぇ と鳴いて 羊飼いの足に頭をこすりつけた
羊飼いの少年は 小さな羊を抱きかかえ 家へと入っていった
そして 装いを整えて 手には杖を持って 出てきた

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第26話 その7

わが子よ 何を願おうか
わが子よ 何を語ろうか
あなたに何を与え どんな恵みを施し あなたの道を示そうか
わたしはあなたの目を開き すべて正しく見えるようにした
あなたの耳を開き すべて生きるものの賛美を聞こえるようにした
あなたの鼻を開き 必要なものを嗅ぎ分けることができるようにした
あなたの口を開き わたしのことばをあなたの舌に与えた
あなたはわたしのうちにいて わたしとともに歩むだろう
わが子よ わたしのうちにいる愛子よ
あなたは少しずつ 知りなさい
必要なものはすべて わたしのうちにあって あなたの手の届くところにある
あなたはひとつも取りこぼすことはない
あなたは わたしのうちにいるのだから

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第26話 その8

町では 人々が互いにぶつかり始めていました
自分のすべきことだと思っていた自分勝手な計画に足を進め 周りも自分をも顧みず急いでいたために
他の人にぶつかり 傷つけてしまうようになりました
彼らは自分の主張のみを語り 足元に赤子を踏んでいても気にすることなく 叫び続けました
私を通らせよ 私の道を進ませよ
それは皆のものが語り 口をそろえて言いましたが 一致ではなく不和を生み出し 破滅に先立つものでした

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第26話 その9

それは突然に来ました
夜を駆ける盗人のように 茂みから現れるマムシのように
そのものは町に迫り 多くの人を自らの側へと引き込むために
手を伸ばし 幼子を取り去ろうとしていました
しかし それは羊飼いの招いた火に焼かれ 人々の心とともに焼かれていきました
水の底に住むものは呪われていると書いてある通りに 忍び寄るものは小さな魚と同族でありました
しかし そのものは 女性の故郷からの風に侵され その分を超えてしまったので 陸へと上がり 人に牙を向けるものとなってしまいました
その数は多く 町の人々だけでは対抗することはできませんでしたが
天から降る その火が 彼らを焼き尽くしました

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第27話 その2

女性は うちにあった世界で言った

一人の人が 月の光の下歩いていた
そこには水がなく 見渡す限り砂漠で 木も葉がなく 枯れていた
その人は ぽつりと言った

誰が信じるだろうか
ここはかつて人の住んでいたところだった
ここは緑に溢れ 豊かな土地で 季節に応じて作物が実り 水で潤っていた
しかし いまは荒れ果て 人や獣はおらず すべての地の産物は絶えてしまった
このことは 一夜にして起きてしまったのだ

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第27話 その3

その方は言った
あなたがたわたしの子たちよ
あなたがたにわたしの思いを分かち合おう
わたしの父はあなたがた一人ひとりを選んでわたしに与え 栄光をあらわすために装われた
わが子たちよ わたしはあなたがた一人ひとりを考えて喜び この愛の故に父に感謝している
それは わたしのうちで父の中にあるいのちが燃えていて それがあなたがたのうちにも灯され
わたしが見るようにこの世界を見て わたしが語るように舌で語るからだ
わが子たちよ あなたがたはわたしを見失うことは決してない
周りが暗くとも 顔を上げなさい
そこにはわたしが生まれた時に導いた星の輝きが あなたがたを照らして導く
あなたがたはどんな状況にあっても落胆してはいけない
それは 父のみこころではなく 性質ではないからだ
あなたがたはすべてをわたしに委ねなさい
あなたがたに触れるものはすべて焼かれ 傷つけるものも殺すものも あなたがたにそれを行う前に滅ぼされてしまうから

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第27話 その4

それを聞いた少女は 羊を抱きしめて目を閉じた

すべてのものはあなたをたたえ すべて生きあるものはあなたを褒め歌う
私の心は揺るがなく あなたによりたのむので あなたは私を守られます
私の血はあなたのゆえに燃え上がり 私の心はあなたの言葉のゆえに火を灯される
その火は真理の油によって燃え すべての不義を焼き払うもの
すべてのことを分別し 炉で精錬されたような剣であるあなたのことばを この舌は語ります

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第27話 その5

その方は言った
あなたの目を洗い わたしの見るように見なさい
あなたはいま わたしとともにいるのだから 同じ視点でものを見なさい
日々 父の語ることばを受け その恵みにあずかり いつも満たされていなさい
それこそ この世にはない喜びであり あなたがたが生きる上で必要なものである
子どもたちはそれを聞いて頷いた

あるところに 野菜の畑があった
畑には様々な作物が植えられ 人はそれを育てていた
あるとき その種類が多いために 互いに絡み合うようになってしまった

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第28話 その2

少しすると 薬のにおいが漂う建物が目につき 少女たちはそこの戸をノックした
中から声がしたので 少女は扉を開け 中へと入り 羊を見せて言った
この子が旅の途中で苦しみだしたので 見ていただけませんか
中にいた人 そこに住む医者は大きな眼鏡をかけなおして 羊をベッドに寝かせ あちらこちらを調べた
そして 何度も本を開きに机へ行ったり 本棚へ走って行ったりを繰り返し 最後に首をかしげて言った
全くわからん
少女は驚いて言った
じゃあ 私たちはどうしたらいいのですか
大きな眼鏡の医者は 首を振って答えた
これは このあたりの病ではないかもしれん
私の手にはおえん
長年続けている研究が進めば どうにかなるかもしれんが……
女性は医者を見つめて言った
では ほかの方に見てもらいます
ありがとうございました
そうして羊を担ぎ上げて出ていったので 少女は慌てて後へついて行った

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