第28話 その5

家にこもっている医者は 顔を上げて窓を見た
それは 彼に語りかける声を感じたからだ
しかし その内容までは聞き取ることができず 医者は立ち上がって窓のところへ歩いていった
すると 町の人々の様子が いつもと違うように感じた

別の医者も 木の陰で休んでいたところを 糸で引っ張り上げられるかのように立ち上がり 周りを見回した
語り掛ける声を聞いたからであったが その声の主を見出すことはできなかった
そして 彼も 町を行き交う人々の様子がおかしいことに気付き 何が起きているのかを探ろうと 近くの人に話しかけた

さて 羊は一通りの文を書き終えると 本を閉じて それを開いた
すると 光が文字とともに溢れ出て 宙を駆け巡り 町中に広がった
羊はそれを見届けて めえ と鳴いた
少女たちもそれを見て 町の中に広がっていき 光が散っていくのを見た
そして いままでは羊にばかり気を取られていたが 町の人々の様子を はっきりと見ることができるようになった
歩いていく人の顔色は悪く 羊の苦しんでいたように 胸を押さえて やがて倒れてしまった
少女たちは その人のところへ駆け寄り 身を起こして声をかけた
大丈夫ですか どこか痛むのですか
しかし 町の人は何も答えることなく 目を瞑り 苦し気にうめき声をあげた
少女たちは顔を見合わせ 苦しむ町の人を 近くの医者の所へと運んでいった
すると 医者の建物は人であふれていた
少女たちは 人々の間を縫って入り 町の人を引きこもりの医者の元へと届けた
引きこもりの医者のところには 何人もの人が ベッドに寝かされていて 皆苦しげであった
少女は言った
これは 何が起きているのですか
引きこもりの医者は答えた
わからない
それぞれの症状を見た限りだと 君たちの羊と同じようなものだ
そのために 私はどう対処していいのかわからないのだ

引きこもりの医者が頭を抱えていると そこへ物見遊山の医者がやって来た
彼も患者を抱えてきた
物見遊山の医者は言った
これはどうなっているんだ
引きこもりの医者は 首を振って わからない と答えた

この町には 医者が二人しかおらず それでも十分に回っていたため この事態に対処できないでいた
少女は言った
あなたがたは この町で二人だけの医者ですが 恐れてはいけません
あなたがたが 解決の鍵を握っているのですから
しかし 二人の医者は顔を合わせて言った
私たちは これを見たことがないのだ
どうすれば この町は救われるのか