第27話 その1

羊は本を開き 筆をとって書をしたためた

それは 来る日の出来事 過ぎ去った日の出来事であって
すでに語られ その光があらわにされたので これを書き記したものである

あるところに羊がいた
羊は一匹だけであったが 寂しいとはおもわず 孤独に沈むことはなかった
それは 羊の周りを絶えず暖かな日が包み 風が彼を運んでは 日々の食物である草を食べさせ 乾く前に水のほとりへといざなった
羊は連れて行かれたところに伏して 満たされるままに食べ 潤うまで水を飲んでいた
ある時 羊は声を出すことができることを知った
羊は試しに近くにあった木に向かって口を開いたが 自分がきちんと話せているのかわからず そもそもことばを知らなかった
そして 木は何も答えず そこに立っていた
羊はしばらく鳴いた後 口を閉じてしまった
すると 声が聞こえた
わが子よ こちらへ来なさい
わたしの示す方向へと歩いて行きなさい
そこで わたしの語ることを行いなさい
羊は周りを見渡したが 誰が語っていたのかわからなかった
そして そのことばは 自分が先ほどまで発していたものと異なり きちんと意味をなしているものだとわかった
羊は声の導くままに歩き 光の照らされた先を進んだ
すると そこには女の子がうずくまっていた
女の子の着ている服はボロボロで 涙を流して泣いていた
声は言った
その子に寄り添い あなたのしてもらったことを してあげなさい
羊はそのことを聞いたがわからず 女の子に寄り添った
女の子は羊に気づいて顔を上げた
すると 羊をじっと見つめて 再び涙がこみ上げた
やっと見つけた 私の子
女の子はそう言って羊を抱きしめた

羊は女の子のために 自分の毛で衣を作って 女の子を包んだ
それは真っ白な着物で 光に輝いていた
羊は女の子を 自分のいた木のところへと連れてきた
すると 木は風に吹かれて葉をこすらせ 成っていた実を落として女の子を満たした
声の主は木であって 木が羊をいつも導き 暖かいもので覆って孤独を退けていた
木は世界を作った方の植えたものであって 彼によってすべてが紡がれた
木は言った
あなたの受けたものを 他の人に分け与え そのことを宣べ伝えなさい
わたしはそのためにもあなたを恵み 満たして余りあるほどに施すのだ
わたしはあなたを選んで わたしを伝えるものとして立たせた
あなたはわたしの子 子は親のことを知らせ 親のように成長し 親のように働くようになる
わたしはあなたがたを決して一人にはしない
わたしは あなたがたを選んで作り わたしのそばへと呼び寄せた
だから あなたがたが引っ張ってくるものも わたしのそばへと来るだろう
あなたは まずわたしの実を食べ その味を知って それを歌うまでに満たされなさい
心に喜びがあるならば 人は歌うのである
あなたは喜びの人であって わたしがうちにあってあなたを思い 喜び歌っている
だから あなたもともに喜び歌いなさい
これは命令ではなく招きである
羊と女の子は そのことばを聞いて受け入れ ともに生きるものとして光の中を歩んでいった

羊はそれを書き終えると 隣にいる少女を見つめた
少女は羊が見ていることに気づき 近づいて笑い 頭を撫でた
羊は めえ と鳴いて本を閉じ 再び開いた
すると 先ほどまで書いた文章は光となってはじけ 外に出て行き 風に乗って遠くまで飛んでいった
どこまでも遠く ことばの望むままに 言い送った方の示すところへ