第20話:はじまりのいえとおおきなき

ねえ 起きて
誰かが自分を揺すり 呼ぶ声が聞こえる
光に包まれた後 目を開くことも動くこともできないまま 体の外との感覚があいまいになっていき
しまいには立っているかどうかもわからなくなっていた
起きてください
揺すられる感覚も 次第に強く 実感できるくらいになり そろそろ夢心地から抜けることができそうだ
うぅん
体から搾り出した答えが うめきになってしまったが そんなこともかまっていることもできないくらい
頭が回っていなかった
しかし そのうめきを希望として捉えたのか 自分を揺するものが歓声をあげ より強く揺するようになった
起きてください 前みたいに離れてしまうわけにはいかないんです
そのことばは 心に響いて うちから自分を揺すった
起きないと
そう思いが湧き上がり 少女はゆっくりと目を開けた

それは 夜の様に光を吸い込むほどに黒く 長い髪だった
それが風に揺れて 麦の様にさらさらと音を立ててなびいていた
その顔は 太陽のように明るい笑顔か もしくは夕日のように日を惜しむような悲しみに満ちた顔か
いろんな感情を混ぜ合わせたような くしゃくしゃな表情をしていた
よかったぁ やっと起きてくれた
その人の顔に どこかであったような気はしたが 少女は思い出せなかった
その人は 考え込んでいる少女に抱きつき よかったよかった と涙を流し始めた

少し離れたところに 羊が転がっていた
少女と同じく この場所に飛ばされたようだった
羊は 誰かの泣き声に目を覚ました
声のする方を見ると 少女が誰かに抱きしめられて その顔はなんとなく苦しそうだった

羊は辺りを見回した
一面岩が転がっていて 乾燥した空気に満ちていた
自分たちが寝ていた場所は 穴蔵になっていて 強い日の光を遮って ひんやりとした空気が漂っていた
ここはどこだろうか
自分たちは よく知らないところに行くので 不安はなかったが 状況を把握することは いまだに慣れなかった
とりあえず この中で この場所を一番理解していそうな人物が泣き止むまで 羊は外を眺めることに決め込んだ

おはようございます お二方
泣きはらして赤くなった目を気にすることなく 笑顔で言い放つ女性
少女を見ると どこかぐったりとしていた
旅の疲労が抜け切れてなかったのだろうか
羊は めえ と鳴いて少女にすり寄った
せめて 自分の毛で気休め程度でも疲れが抜けてほしい と羊は思った
少女は 羊の意を汲んだように 羊に身を預けた
すると 女性は言った
休んでいる場合ではありません すぐにここを立ちましょう
私たちは行かねばならないところがあるのです
少女はちらりと女性を見て 口を開いた
あなたは誰なのですか
そのことばを聞いて 女性は固まった
何をおっしゃっているのですか
お二方に助けていただいたものです
少女も羊も首を傾げた
いつ助けた人だろうか
女性は二人の反応を見て もどかしそうに手足をパタパタと動かした
ほら 王都で助けてもらったものです
竜の中にいた
そのことばに 二人の記憶が鮮明に呼び起こされた
と言っても 眠る前まで顔を合わせていた人物なので 忘れるはずもないのだが
竜の中にいた髪の長い少女は あのときは幼く見えた
いま目の前にいる女性は どう見ても大人のようで 面影はあるものの 言われないと気づけないほどに 女性は成長していた

あのときはありがとうございます
あの後も 国を建て直すために 西へ東へ 王女さまや英雄さん あの町の子たちと一緒に駆け回りました
その方が種を蒔き あなたがたが水を撒いてくださったおかげで 他の町々はすぐに立ち上がることができ
王都含め国の復興は時間がかかりませんでした
国の基盤である土台を据えた後は 私たちのような孤児や 養われるべき人たちが飢えや裸に苦しまない様に
王女さまは王都にとどまり 各地へ指示を出し 私と町の子は先頭に立って 各地へと物資を届けたり 教育や指導をしたりして 隅々まで蒔かれたいのちが行き渡るようにしました
特に 王女さまはどんなに大変であっても 民や私たちに心を配ってくださり 心が冷えてしまわないように ことばと行動とで国を温め続けてくださいました
また 働きの中でも 行動の軸となる模範として その方のことを話してくださいました
その方やあなたがたとの旅を話す王女さまの顔は 陽だまりに咲く花の様に 生き生きとしたものでした
それを見ると 本当にその方たちとの時間が 生きたものだったんだと みんな感じて その方の語ったことばを繰り返すたび 心に刻まれていきました
本当の幸せとは この方が感じてらっしゃるものなんだと 私たちがこの国に実現して満たすべきものは この笑顔なんだと 励まされました

何年も 何十年も 王女さまは先頭に立って 民を導かれ 老いた後も 誰一人欠けるようなことがない様にと いつも心を国と民とに注がれていました
いまあの国が生きているのは 王女さまと その方やあなたがたのおかげなんです

そう語る女性は 生き生きとして まるで子どもが親に一日の出来事を話すかのようだった
羊と少女まで 喜びと感謝が伝わり 自分たちの父を讃える思いでいっぱいになった

しかし……
女性 竜から出てきた髪の長い少女は 顔を下に向け 声も沈んでしまった

驕り高ぶるものは なににたとえられようか
自分を高め 他をさげすむものは何に例えようか
そのものは 自分が美しいと思いながら 泥を踏み歩くようなものだ
その足は汚れを撒き散らし 衣はシミだらけである
手で触れるもの 歩くところすべてが泥にまみれてしまうだろう
このようなものは 盲目であって 自分自身を知ることがない
鏡があっても見ることができず 悟ることもできない
自分を知るものは 身を低くする
自分を愛することができるものは 謙遜を知っている
それは 自分の創り主を知り 愛しているからである
これは 祖国を捨てた女の子の話
そして 母国へと向かう子どもたちの話

私はどこから抜かれただろうか
私はどこへ植えられただろうか
抜かれたのは 泥の沼から
そこには瘴気が漂い 近くものをくるわせてしまう
私はそこで生まれ そこで育ち そこが私の世界の全てであった
周りのものが語ることを 理解することはできず その語ることが ことばでなくとも 悟ることはなかった
しかし 私は その場所から取り去られた
どこか 遠くへと移された
そこは 水のほとり 火の山から遠く離れた 憩いの地
そばに植わる木には 麗しい実が絶えず成り 空の鳥たちは枝に巣を作り 子をもうける
日は我が身を焼くことはなく 心の中を照らす明かりとなった

わが子よ
あなたが生まれた地 あなたが取り去られた場所を忘れよ
あなたを産んだ家を あなたの記憶から取り除け
それは あなたに何かを加えただろうか
あなたに益なるものを注いだだろうか
あなたを連れ出したもの 力ある御手によって あなたを移された方を 慕い求めよ
彼はあなたを飾られ 選り抜きの銀で作られたきよい冠で あなたを飾られる
彼はあなたに良いものだけで満たしてくださる
彼の御口から語られることばに いつも耳を傾けよ
彼のすることに いつも目を留めよ
彼はあなたを連れ出し あなたの夫として あなたは彼の妻として 迎えられたのだ
古きものを捨て 新しき衣をまとえ
彼があなたを愛するその愛を受け取るなら 湧き出る純粋なことばを持って 愛の歌を歌え
わが子よ あなたを連れ出した方 その方の与えられたあなたの右の手を きよく保ちなさい
それが あなたを導き あなたに悟りと知恵とを与える
良きことばと行いとを 自分の内に蓄え それを時に応じて取り出して 用いることを覚えよ
それが 彼の妻として仕えることであり 富んだもののすべきことである
あなたがいま豊かなのは あなたがその中に植えられたからであり あなたは何も加えることをしなかった
しかし それはあなたが誇ることのできないようにするためであり
あなたが自分の冠を脱ぐことをさせないためである
わが子よ いつも彼の教えに耳を澄まして 彼のことばを 内に留めなさい
そうすれば あなたの悲しみは過ぎ去り いつも良いものに満ちたり 満たされていることを知るようになろう

髪の長い女性は言った
私は 王女さまたちのお生まれになった あの国で生まれたものではありません
遠く離れた別の地で生まれ そこから連れ出されたのです
どんな土地 どんな国で生まれたのかは はっきりとは思い出せませんが
どの方角からやってきたのかはわかるのです
はじめに植えられた地に 根が残っていて その根が私に語りかけるのです
おまえの生まれた地に戻ってこい と
しかし その根のことばとともに感じるのは まるで竜の中で感じていたような
淵から叫んでいるような 深い憤り を感じました
また 自分の生まれた地の方角から わずかながら瘴気をはらんだ風が 王女さまたちの国に 流れてくるのです
最初は意識しないと気づけないくらいだったのが 日を経るにつれどんどん強くなり このままでは人々が苦しみながら生活しなければならなくなってしまいます
やがて病人や死んでしまう人も出てくるかもしれません
どうかお願いです 私と一緒に 私の故郷 私の生まれた地に行ってくださいませんか
私一人では 戻ってもどうすることもできないでしょう
しかし その方とあなたたちなら 王女さまたちの国を救ったように 助けてくださると信じています
女性はひれ伏して言った
どうかお願いです 私と一緒に 故郷に行ってください
羊と少女は女性に近づいて すぐに身を起こした
少女は言った
わかりました 私たちもあなたの父の家に向かいましょう
羊は女性を落ち着けようと もふもふした
女性は顔を上げて 少女たちを見て 二人に飛びついて言った
ありがとうございます ほんとうに ありがとうございます
女性は涙と鼻水を流しながら 二人を抱きしめて泣いた

その木には 境が設けられていないように見えた
木は大きくなり 周りのものを呑み込み 自分が得るべきでないような種をも巻き込んでいった
それ故 木の根元からは その木でないものの芽が生え 背を高くしていった
木は広く根を伸ばし 多くの水を得るに至った
木は枝葉を広げて 日の光を浴び 気づいたときには 木すらも驚くほどに成長していた

木は 自分の根を見下ろして そこに自分のものではない芽が出ていることに気付いた
そして思った
ああ 自分は自分の分を越えて根を伸ばしてしまった
自分の受けるべきでないものまでも 自分は受け取ってしまった
それゆえに その種は日を浴びることもなく 朽ちてしまうのではないか
自分が育ってきたこと 自分が通って来た道は 間違いではなかったか

しかし それを植えた方は どう見ているのだろうか
この地に 木を植え これを育てた方は どう見ているだろうか

羊と少女は 女性が落ち着くのを待ってから 話を始めた
これからあなたの故郷に向かいますが 故郷がどんな場所かは あなたはご存じないのですよね
ならば 行く途中にある町で 情報を集めていきましょう
なにか 解決の糸口があるかもしれません
女性はこくりとうなずいた
少女はにっこり笑って 立ち上がり 言った
さて 時間もありませんし 先へ進みましょう
羊と女性も立ち 三人は 穴倉の外へと出た
そこは少し高台になっているようで 周りの風景を一望できた
遠くに町のようなものが見え 少女はふと思い出していった
そういえば 王女たちや国の話も 旅の中で聞かせてくださいね
それを聞いて 女性は笑い はい と答えた
髪の長い女性は このくらいに大きくなったのだ
王女や町の子も 大きくなっているのだろうな
機会があれば 一度会って話してみたいな
少女は そう思いつつ歩き出した

境を越えて大きくなった木の枝を 木を植えた方が折って切り離し
それを用いて杖をつくった
そして 木に語りかけた
この杖を わが子に与える
この杖の行く末が あなたをあらわすものとなろう
あなたはしかとそれを見ていなさい
あなたがどうしてここに植えられたのか
あなたがどうしてここまで育ったのか
その杖 あなたの枝の生じる実が それをあらわそう
あなたはその実を見極め 自分自身を鏡のようにしてみてみなさい

女性はまず 王女さまたちの国へと行きましょう と言った
時間はありませんが これからお話しすることは あの場所がふさわしいと思いますから
女性は少女たちの先頭に立ち 彼女らを導いた
と言っても 半日ほど歩けば着くので それまで別のお話でもしましょうか
少女は女性に言った
王女たちは今どうしているの?
女性は前を向いたまま 答えた
それは 町に着いたらお話しします
少女は 別のことか と頭をめぐらし もう一度問うた
あなたの国のこと 覚えている範囲でいいから 話してくれない?
女性は こちらをちらりと見て 答えた
私も物心つく前に連れ出されたので うっすらとしか覚えていないのです
でも 自分がいままでしてきたことが あの国 私の故郷と関係があるのは感じるんです
私が竜になってしまったことも いま 私が生きていることも
少し歩いて 女性は再び口を開いた
私の国について 風の噂で聞いたんです
私の生まれた地のある方に 大きな木があるんです
その木は とても大きくて 他にはないほどに根や枝が広げられて その下には あらゆる動物や人が住んでいるらしいのです
時期になると実が成って 熟して根元に住んでいるものたちを養って 豊かな地だと 有名なそうです

そこまで言って 女性は少し口を閉じ 間を置いてから語り出した
他の話では そこはあまりに豊かなために 木が驕り高ぶり その地が呪われてしまった というんです
根を伸ばした先にある川は臭くなって 泳いでいた魚が死んでしまったり
虫が大勢やってきて 作物や住んでいる人たちのところを荒らしたり
死の風が吹き荒れて 木のある地域を通り過ぎた なんてものもありました
良い地でもあり呪われた地でもある
なんとも不思議な場所だと聞きます

祝福と呪いとを注がれた地 羊と少女は 影の男の子であった本の中を思い出した
本の中の麦畑で出会った女性 彼女にまつわる話
片手に祝福片手に呪いを持って生まれてきた女性
道端に揺れる麦畑が金色に色付いていて 揺れていた
母が子を揺らして 眠りにつかせるように
彼女のいた麦畑も このように色づいていた

そろそろ町に着きます
女性は振り向いて二人に言った
羊たちは畑から前に目を移すと 見覚えのある門があった
前の旅のはじめに来た町と同じ作りで 町の周りの雰囲気も似ていた
町に入ると 女性はある建物へと二人を連れていった
そこは小さな家で 中は本棚が壁一面に立ててあり 本がぎっしりと詰まっていた
女性は扉を開けると どうぞ入ってください と言った
二人は中に入ると 懐かしい香りに満ちていた
どこかで嗅いだような というよりも 雰囲気が懐かしく感じた
ここは 英雄さんが書き残した物語を綴った本だけ集めました
女性はカップをテーブルに並べ ポットに水を注いで温めていた
羊は興味深そうに 本棚を見つめ 本を一冊そこから抜き出した
そこにはこう書いてあった

木について
ある地に 木の苗が植えられた
その木は成長し 二つの枝が生えてきた
一つは右に 一つは左に伸び それぞれ違う景色を見て育った
同じところから恵みを受け 同じ食物によって育ち 同じ地で育った彼らは 違う方向 違う日を浴びて育った
一つの枝は 朝日を見て育った
藍色に染まった空 夜明け前に輝く 明けの明星に照らされ
次第に明るく 勝利を得た勇士のように登ってくる日を見つめて
すべての息あるものは その日 今日が作られて その中に自分たちが息づいていること そうなさった方をほめたたえた
日は高く登り ついにまひるとなり 枝が見つめる世界も入れ替わった
もう一つの枝は夕日を見ていた
気づいたら すべてを得ていた 皆眠るために巣に帰り 枝自身も木から受け取った養分で満腹であった
日は燃えるように空を照らし 一日の終わりと始まりを告げるように 端まで焼いていった
完全に日が落ちると すべてが焼け焦げたように 真っ暗な世界が広がった
二つの枝は 同じ星空を見た
静かな中に 地を照らす月は 一日の出来事を 語りかけるように 優しく輝いていた
同じことばを聞いていた二つの枝は 日によって与えられた世界の中で それを受け止めた
木は 同じところから出て 同じものを受けたが 違うものを見ていた故に 違う実を結ぶようになっていった

羊は中を読んで 首を傾けた
これは なんのことだろうか
二つの枝 とは 昔この国が北と南に分かれてしまったことだろうか
それであれば 再び一つになるように描かれていないのは 不自然ではないか

少女も羊が開いている本をのぞき込んで 書かれている物語を読んだ
少女はそれを解き明かすことはしなかったが 心に留めておいた

さあ お茶が用意できましたから テーブルに来てください
女性は二人を呼び お茶菓子と熱したポットをテーブルの上においた
二人は立って本を本棚に戻し 席に着いた
女性はポットからお茶を注ぎ それぞれの前にカップを置いて 自分も席に着いた
少女はみんなを見て 感謝のことばを述べた
そして みんなはカップに注がれたお茶に口をつけた

木の杖 大きく育ち その垣根を越えるほどに大きくなった木から作られた杖は
一人の娘に渡された
それは 彼女も木と同じものだったからである
木と同じく 多くを従え 多くのもののために仕えるものだったからである
わが子よ あなたの右の手が あなたを弁えさせ
書記官が自分の仕えるものを書き記すように 世界に溢れるものを 明らかにしなさい
天には栄光 地には平和が満ち溢れ 彼によってもたらされたことを すべてのものに明らかにしなさい
娘は そのことばを聞き 杖を持ちて自分の養うべきものたちを 自分の元へと導き
彼らが飢えに苦しむことのないように施し 渇かないように川のそばへと伴った
木も同じである
ただ その場所から足を生やして動かないだけで 実を生じては根元に住まうものを満腹させ
川の水を引いて うちに住むものたちを潤した

誰が木を責めるのか 木を植え 木に恵みを施して育てられた方が すべてをなしているのだとしたら
誰がそれにことばを加えることができようか
彼が木を良しとされたのだ
杖を握る娘は 地をかけて その方の描いた道を進んだ
迫り来る悪や まとわりつく罪を捨て 一切の敵を砕いていった
彼を責める口は罪に定められ 彼を責める剣は全て折られる
それが 彼の受け継ぐものであって 彼をよしとされた方のみこころであった

三人は 最初の一口をすすった後 満足そうに息を吐いた
少しとはいえ歩いたあとの一杯は 格別である
女性は カップを置き 口を開いた
王女さまたちについてですが
少女と羊は女性を見た
女性は少し間をおいてから語り出した
王女さまは もういません
女性は少女に目を向け その瞳を見て話した
王女さまは 最後まで国と民を思い その方のみこころのままに尽力されました
そして その日が満ちるまで働き 眠りにつかれました
王女さまは言いました
もし あの子たち 私の姉妹たちが来ることがあったら 迎えてもてなしてあげてね
そして あなたが何か困りごとがあるなら その時は頼りなさい
きっと助けになるから
そのことばのとおりに 私が困っている時に あなたがたは来てくださいました
そのことに感謝します
少女は少しうつむいた
王女は もういないのか
それだけ 自分たちがあの家で休んでいる間は 時間が流れたということだ
しかし それならば この女性はどうして若々しいままなのだろうか
ふと疑問に思い 少女は女性に尋ねようとした
すると 女性が先に口を開き 再び話し出した
王女さまだけでなく 町の子も各地に遠征している途中で 息を引き取りました
彼は奥さんと 多くの子どもに恵まれて 孫たちを引き連れながら旅をするのが大好きな方でした
彼らが行くところは 歌に満ちて どんな暗いところでも明るくしてしまうので 町々は活気にあふれていました
英雄さんは いつの間にか居なくなっていました
王女さまがなくなる少し前に 姿を消して そのまま誰も行方を知りません
王女さまをそばで支えて 一番愛していましたから 最後まで見届けるのが辛かったのかもしれません
羊はそれを聞いて 少女を見つめた
少女は 羊の視線に気づき 抱きしめた
女性は 少し笑って 話を続けた
それから 幾年も時が流れました
国中をききんが襲った時も 王女さまが残していた計画と蓄えで 国中誰一人飢えることはありませんでした
災害が起きた時も 近隣の地域は被災地に駆けつけて 天幕を貼り 自分たちも被害にあった人々とともに住んで
立て直すまで苦楽をともに過ごしました
祭りのときは 盛大に祝って私たちを作ってくださった方を褒め歌い 豊かに実った収穫の一部を みんなで分け合って町ごとに宴会をしたり
ときには食を抜いて 進むべき道 決めるべきことを伺うために祈り求めたりと
国が一つになって まるで家族のようなのを見るたびに 王女さまが願ったことが成就しているのを実感して嬉しくなるのです

女性は一つの菓子をとって 言った
これは 今年採れたもので作ったのです
とれたての新鮮な香りが 今も漂うほどに いのちにあふれています
私は この国を守りたいです
王女さまが その方が救ってくださった大切な場所 愛すべき人々が住んでいるところなんです
少女と羊は女性を見た
女性の顔は 決意に満ちていた

木は多くの葉と実をまとうとき それが自分の力で為したことではないことを知っていた
それゆえ これを恵まれる方は 多くのものを木に与えた
それは 自分を飾ることを 自分のためではなく 自分を飾ってくださる方の栄光をあらわすためにしているからである
これが油注がれた木 と言われるようになるのは もう少し後のお話
油注がれていることを知るためには その実を搾った時にのみであるため
それを行うものが行った後ではじめて明かされるのである