第6話-7:はじまりのいえと いろのついたはなのみち 虹色

獅子は手に持っている杖で 流れた血を打った
すると それは燃え上がり 円状の溝に満ちている橙色の液体に燃え移った
それは 一層激しく燃えて 火は川へと伝っていき そのまま火の柱を運んでいった

火の柱が崩れた王座を包み 老父を照らした
老父は重くなったまぶたを上げて 獅子を見た
それは かつて自分に語られた方 老父に志を与え すべてを備えてくださった方のように見えた
老父は獅子に語り掛けた
あなたは あなたこそが私に道をくださった方ですか
私はいま どうすればよろしいのでしょうか
すべて 私の手から離れて 燃え尽きてしまいました
もうなにも残されていません
あなたは 間違ったものを召し出し 命令されたのではないでしょうか

獅子は言った
あなたが言っているその方は 私ではない
だが あなたの問いには答えよう
わたしがあなたを選び あなたを力づけこの道に導いた と言われる方のことばを聞きなさい
あなたはいま かつてわたしが与えたものをことごとく焼き尽くしたそれは灰となってチリのようになってしまった
しかし 見よ それはいまどうなっているのかを
いまあなたの目を開こう それをあなた自身をとおして見てみなさい
それは いま あなたの影のようになってはいるが 決して焼かれ滅びてはいない
あなたのこどもたちは あなたが焼き尽くしたものの灰から生まれ そのきよめにあずかってわたしとともに歩むだろう
あなたはなにも残さなかった しかし わたしはあなたが成し遂げなかったその命令を 彼らに告げ 受け継がせる
それは あなたに告げた約束をともなったものだ
あなたはいつしかわたしの心から離れ 自らの手でそれをなそうとした
それはわたしの思うところではなかった
それゆえ あなたは手を伸ばしたが得られず 時期は過ぎ去ったが実がなることはなかった
ただ あなたにとっての喜びであるこの子たちだけが残った
わたしはこの子らを刈り取り わたしのための用いよう

王は言った
その子らとは だれですか
そのものたち 私の喜びはいまどこにいますか
獅子は答えた
この火の導く先に それはいる
わたしについてくるなら それを見よう

足もとに落ちていた 真っ黒に塗りつぶされた花をもって
獅子は老父を連れて 険しい山を下りていった

獅子は言った
あなたには何も残されていなかった
しかし それは真実ではない
あなたには あなたに注がれた油があった
あなたはそれに気付かず このように衰えはてて 盲目になり 地をさまよっていた
わたしはそれに火をつけ あなたの目に光を与え 本来の道 また 子らの歩む道を照らそう

そうして二人は麦畑に来た
そこには落穂を拾う女性がいた
女性は休まずにずっと麦の穂を拾い続け 体と心に限界が近づいた
その手はぼろぼろになり 服も擦り切れていた
獅子は女性に声をかけた
手を止めて わたしを見なさい
女性は 普段なら無視して拾い続けていたが その声には抵抗する気持ちが起こる間もなく 女性を獅子に向かわせた
獅子はかしずき 女性の手を取って その甲に口付けをした
すると 傷んだ手や体 また服やうちにある魂までも その傷がいえていった
獅子は女性に言った
あなたが会うべきもの あなたが本当に養うべきもののところへ連れていこう
あなたはいま すべてを捨てて わたしについてきなさい
女性は獅子のことばに ひかれるようにして 手に持った麦を捨て ついていった

麦畑を抜けると 木々の生い茂った場所に入っていった
獅子はあたりを見まわし また耳を立てて音を聞いた
すると 遠くから歌声が聞こえてきた
それは 羊や少女が聞いた声と同じものであった
獅子はその方向へ右にも左にもそれることなく突き進み 探していたものを見出した
それは悲しい歌だった なにかを問い続ける歌だった
歌い人が人前では歌わず 一人の時にのみ歌っていた詩だった
それにこたえるように 獅子は歌い 歌い人の前に出た
歌い人はびっくりしたが 獅子の口から出ることばの一つ一つを聞いて口を閉じた
獅子は言った
あなたは死んだが いま生きている
あなたが愛したもの あなたが探し出してようやく見つけた宝の元へ あなたを導こう
わたしについてきなさい
歌い人は 獅子のあとについていった
歌い人のもっているカバンの中にある 瓶の中の液体にも 火は灯っていた

一行は岩の切れ目から洞窟の中に入っていった
しばらく進むと めらめらと火が燃えて その火が天井も床もすべてを焼いているところに出た
そこには 火から離れたところに 女性がうずくまって泣いていた
獅子は女性に声をかけた
どうして泣いているのか
女性 足が魚のひれのようになっている人は答えた
私は 私の愛する人が死んだので 私も死を迎えるまでその方と一緒に過ごしていました
このいのちが尽きて愛する方と出会ったとき 何を話そうかを考えて 息が細くなるのを待っていました
しかし 突然水が燃え上がり 私は急いでそこから離れましたが 私の愛する方の体は火に包まれて燃えていきました
私には 火を消すための力もないので こうしてここで泣いているのです

獅子は言った
ならば あなたは涙をぬぐい顔をあげなさい
あなたは死んだもののために生きるべきではないのだ あれにはもういのちがなく ただ土に帰るものにすぎないのだから
ひれのある女性は答えた
いいえ なりません 私は泣き腫らし 心も折れてしまっているのですから

すると 歌い人が泣き悲しむ女性に声をかけた
あなたは その声は もしや私の愛する方ではありませんか
ひれのある女性は そのことばの主を見た
涙で遮られた視界でも それをはっきりと見ることができた
王子さま…
涙を流す女性は そうこぼした
歌い人はかけていって 泣き続ける女性を抱きしめた
やっと会えた もう会えないと思っていた 私の宝 私の花嫁よ
あなたのためなら いのちも惜しくなかった しかし あなたに会えない時は この身が焼かれるように苦しい時間だった
だがいま 私はこうしてあなたに会うことができた あなたに触れることができた
もう決して あなたを手放さない 私はあなたから離れない
うずくまっていた女性は 涙がさらに溢れ 言った
ああ あなたが海に投げ込まれる前は 決して触れることがゆるされていなかったのに
あなたはこうして いま私に触れてくださっている
それを拒むものは もういないのですね あなたは 私と共に生きてくださっていいのですね

あるところに 海に住む汚れたものと言われていた女性がいた
その女性が愛するものは その国の王子であった
王子も女性のことを愛していたが 妬む者たちは それを許さなかった
王は妬む者たちが王子のことを殺そうとしているのに気づき 守ろうとしたが
王子は妬む者たちの手にかかり 海に投げ込まれてしまった
王は王子が生き返るように 女性が引き上げてくれるように願った
しかし 女性は王子が殺されたのを見て 自分の世界に引きこもり その願いを受け取ることができなかった
だが その願いは ことばとなって 王子が生きるように導いた
王子は離れたところに流れ着き 時が来るまでそこで養われた
ことばは王子を強くし 以前にはなかった力を与え 呪いを打ち壊す歌をいただいた
その歌は まず王子のうちにあった悲しみを取り去るために 王子の周りを流れ その心にあふれていった
ことばは力となって働き 光となって彼を導いた
行く先々で 王子は希望を見出し 最後には本当の光を見てそれに導かれ 女性のもとにたどり着いた
王子は歌い 女性にまとわりついていた呪いを打ちこわし その体をきよめた
そして 王子は女性に婚約をした
いつまでも 私たちが離れることがないように 愛の帯を引き締めて

獅子は言った
困難の中でこそ愛は育まれ 全きものとなった
私を救ってくださった方の愛も またそうであった
そして 黒く塗りつぶされた花を取り出した
すると その色が抜け落ちていった

王子とひれのなくなった女性に別れを告げ 獅子たちはさらに奥へ進んでいった
火はその間も燃え続け 道は明るく照らされていた
細い道を抜けると 広い池のあったところに出た
そこには 釣竿を持った男性が座っていた
獅子は男性に声をかけた
あなたはなにをしているのか
男性は答えた
ここにはかつて池がありました そこには池の主がいて 魚たちがいました
しかし いまはごらんのとおり 火がそこを焼き尽くして釣りをすることもできなくなりました
獅子は言った
いまこそ その釣り糸を池の中に垂らしなさい
男性はそのことばに従い 釣り糸を池の方に投げた
すると 糸を引くものがあり 男性は急いでそれを引き上げた
それはいままで感じたことのないくらいに重いものであり 男性だけでは足りないくらいに力強いものであった
男性はいままで練って来たもの いままで願っても得られず眠っていたものを引き出し 糸を引いた
まどろんでいた男性は 自分に与えられた志を思い出して それに力を与えられ 思い切り糸を引っ張り上げた
すると糸の先にあるものは 水から引き揚げられ 陸地にその身を投げ出した
それは とても大きく 池の主のものであった
男性は言った
これが 私が長年求めていたもの ようやく釣り上げた 私の願い
獅子は言った
このものは 母であって 池の中で子を身ごもり それを育てていたのだ より強くより大きなものにするために
後に来るものは このものよりさらに大きく 力強いだろう
あなたはそれをも釣り上げなさい
この火は 人の思いをきよめるためのもの あなたの恐れるものではない

そして獅子は振り向いて女性を見た
あなたはこの男性についていきなさい
このものは より大きなものを目指して進みだした
きっと つまずくところが出てくる
あなたはそれを支えてあげなさい わたしはあなたの献身を 実を結ぶものにしたいのである
女性はうなずき 男性に寄り添った

あるところに 祝福された女性がいた
女性はたくさんのものを与えられたが ねたむものはそのために女性を傷つけ 願わくばいのちをも奪おうとしていた
女性は思った 世はこんなものである これにかかわるべきではない
そして 自分に与えられた夢を 世とともに捨て去って ひたすらに寄ってくるものだけに施しをし 自ら寄り添うことはやめてしまった
また別のところに 夢を追いかけてそれ以外を見ないものがいた
夢のために 技術や知恵 体を磨いてはいたが その夢が遠ざかると心が折れてしまっていた
女性は傷つきはてて 自分のいのちも捨ててしまいそうだったが
光に誘われるようにして 男性の元へ行った
そこで女性が見たものは かつて自分が得ようとしていたものを 必死になって求め続けるものの姿だった
女性は男性にひかれ寄り添って施すことをはじめた
男性も女性を迎え入れ 夢のために 女性のために生きることを始めた

獅子は言った
自分のいのちをつむよりも愚かなことはなく
夢のかけらを拾い集め それを最愛の人と完成させるほどに幸せなことはあるだろうか
そして 手に持っていた影の差す花を取り出した
すると色は抜け落ちていった

獅子と老父は その洞窟を抜けていった
そこは最初に羊たちがいた 暗い森であった
老父は思った
これまでのことは何だったのだろうか
この先には何があるのだろうか
獅子はその心を見て答えた
これまでのこと それはあなたの喜びの子たちの 進むべき道へ踏み出した姿である
彼らはおのおの与えられた道に向かってひたはしり 目的を達するだろう
わたしはそのためにことばを送った なにも恐れるものはない
この先にあるものは 最後のきよめである

二人は進んでいって木々を抜けていった
そこには広い池があった
そこも火が燃えていたが そこには誰もいなかった
獅子は老父の方を見て言った
ここは私のいたところ 私が生まれたところであった
私は影をともなって それに苦しんで生きていた
それはあなたが私を教え導くことができなかったことでもある
しかし 私はこうしてあなたの前に立ち あなたをここへ連れてくることができた
私は本当の私を知ることができ またあなたを愛することができるようになった

私の親であり 私の血筋である方 よくここまで来てくださいました
私はその方によってきよめられ いま その方の道を進み始めました
そのきよめは 私の血筋であるあなたをもきよめ 建て上げてくださいます
獅子は花を取り出して 持ち上げた
願わくば すべての思いをあなたにゆだね それをきよめてくださいますように
すると 花は光だし その色は完全に落ちてなくなった
その光はあたりをまばゆく照らし 獅子と老父を包んでいった

次に老父が目を開いたとき 池の火はなくなっていた
池の水は透き通っていて 周りの木々も 日の光を通すようになり その葉を揺らしていた
また 獅子の向こうには 白い門があらわれていて それがゆっくりと開かれた
その向こうからは その方があらわれて 獅子を招いて言った
さあ 家に帰ろう
獅子はうなずきその方とともに奥へ進んでいった
老父はその方を見て叫んでいった
私は 私はどうすればよいのですか
その方は答えられた
あなたは 次の世代のものに何もすることはできない
ただ 祈っていなさい あなたにはそれしかできない
わたしはその祈りに応えて天を開き 彼らを守り導こう
あなたは この森に住んで ここを治めなさい
そう言って 白い門は閉じていった

扉を抜けると 木の中 絵の飾ってある場所に出た
獅子は羊になっていた
羊は自分の絵 木々と湖と小屋の描かれた絵を見た
それは以前見たときよりも輝いて見えた
少女は言った
この絵って あのおじいさん?
その方は少女のことばを聞いて ふふ と笑った

あるところに 古い王がいた
そのものはすべてを与えられ 地も人も基礎も富もあった
王は志に向かって突き進んだが 自分の火が周りを包み すべてを燃やしてしまった
それを見守っておられる方は 王の生んだ子ら 彼が目を背けて見ようともしなかった者たちを ご自分の翼のうちに隠し その火が届かぬようにした
彼らは一時の間 王と世のものから隠されたが
王はすべてを焼き尽くし 世も彼らを忘れてしまったころ その方は翼を上げられた
それは 出発の時であったからである
王はすべてを失ったが その灰によって その子らはきよめられ その方のものとして祝福の油を注がれた
それは 光の子として歩むためのそなえであった
王は その子らと共に歩んでいくことは 叶わないが 王は子らのために祈りをささげた
どうか 彼らを導き 彼らの中にあなたが住んでくださいますように