第6話-5:はじまりのいえと いろのついたはなのみち 橙色

麦畑を抜けると 川が流れていた
男の子はそこに走って近寄ってみたが 水に色はなかった
羊たちも近寄ってみたが それに色はなかった
この先には もうないのかな
男の子はそうつぶやいた
羊は川の流れがどこに続いているのかをたどった
それはどうやら山から流れているようだった
山の上には 日の光のように 強く光を放つものがあり あたりを照らしていた
ここは本当に不思議なところだ
羊はそう思った
そうしていると 川の流れのうちに 一筋の色が下って来るのを見た
それは これまでとは違う色のようだったが 羊のところにくるころには水の中にかき消えてしまった

羊は めえ と鳴いた
山から色が流れてきているみたい と伝えたかった
男の子はそれを聞いて なんと! と驚き喜んだ
羊は山の上を指した
男の子は言った
山に登ろう きっとてっぺんから眺める景色はきれいだよ
そうして 男の子と少女と羊は 山を上を目指すことになった

そこは なにもない山だった
道中草木も生えず 岩と土しかなかった
川のそばをたどって登っていったが 岸にもなにも生えていなかった
男の子たちは そんな荒れたところをとおりぬけ 頂上近くまでたどり着いた
そこには 洞穴があって 少女はそこで少し休憩をしようと言った
羊と男の子もそれに賛同して 洞穴の入口に座った
すると 奥から声がした
おや お客さんがきたのかい どうぞ 奥へおはいりなさい
もてなすものは 少ししかありませんが ゆっくりしていってください
声の主は 年を取った男性だった
男性は 男の子たちを招くと それぞれを座らせて 菓子パンを出した
男の子は喜んでそれにかぶりついた
羊と少女もそれを食べようとしたが 老父が自分の分を用意していないのを見て 疑問に思った
少女は言った
あなたは食べないのですか?
老父は言った
いえ 私は結構ですよ それに 私の分は もうありませんから
それを聞いて 二人は食べることをやめた
老父は言った
あなたがたは気になさらずにお食べください もとよりこのパンのほかは もうなにもないのです
これをあとに残したところで 私のいのちは 一日も持たないでしょう
私はすべてを尽くしてこのいのちを終えるのです
私は何も持たずに来たもの ならばすべてを失ってかしこへ帰っても 富んでいるなかで去るのとなんらかわりはありません
どうぞ あなた方のために用意したものですから お食べください

しかし 二人は食べる気が起きず それを取っておくことにした

老父は 昔の話をしてくれた
私はこれでも いろいろな国を興したものです
地を耕し 人を育てて 基礎を据え 富を増し加えました
しかし それらは私を満足させることはありませんでした
私には 一つの使命がありましたが そのために 私はすべてを捧げて熱心に取り組んできました
私は土に木を植え 水路をつくって水をやり その周りに垣をめぐらして守り 肥しをやっては世話をし続けました
何年も待って すべてを尽くしてそれに励みましたが とうとう実はなることがありませんでした
そうして年老いた今 私はなにができましょうか
かつての地も人も富も すべてなくなってしまいました
私は今 何をしましょうか
私は 自分に残されているいのちが わずかであることを知っています
だから 最後にあなたがたを迎えて もてなすことができたのは幸せだったのでしょう
私はこの後 山の頂上へ行きます
そして そこで息絶えるでしょう

老父は みんなを連れて山を登った
山は 頂上へ近づくにつれて 険しさを増したが 老父が通るところは安全であって
少女たちはそこをとおって 上を目指した
そして 一番上まで来ると そこは他のところとは違い 広く開けた場所になっていた
真ん中には椅子のようなものが置いてあった
少女は老父に聞いた
あれはなんですか?
老父は答えた
私のかつての王座です 私はあの場所に座り いつも民を導き また先頭に立って引っ張ってきました
彼らはよくついてきてくれ 私に従ってくれました
私が 私に語り掛けてくださる声に聞き従うように 民もついてきてくれました
しかし いまはなにもありません 国は砕かれ 王座はこのようになっています
私は 最後をあの王座の上で迎えるつもりです
せめて 私のために用意された場所で 終わりを迎えたいのです

あるところに 一人の王がいた
彼は光から語られる声に聞き従って 歩んできた
その行い ことば 思いのすべてにおいて 彼は公正であった
そのために 彼は祝福され 声は彼に一つの志を与えられた
それは 彼にとって希望であり すべてに勝る宝のようであった
彼はそのために すべてを用いて その約束を成就するために働いた
彼は燃えていたのだ 心が熱くなり 目はまっすぐにそれを見つめ
いつしか周りを見なくなって ただそれのために突き進んでいた
彼は 抑えることができなくなった火に焼かれて 彼の持っていたものは焼け崩れていった
後に残ったものは 祝福として注がれた油だけだったが もはや彼のうちに燃え上がるほどの火はなく その灯が消えかけていた

老父は 朽ちかけた王座に座った
ちょうど日のようなものも傾き 空は夕暮れ色に染まっていた
すると なにかの仕掛けが動き出したのか 王座を中心として広がる円状の溝があらわれ その中に橙色の液体が流れていた
男の子はそれを見て叫んだ
見て いままでと違う色の水が流れてる!
羊たちもそれを見た
男の子は言った
はやく花に色を付けよう そろそろ色がそろうはずだよ!
羊はせかされるように 花を取り出して 根をその液体につけた
花はそれを吸い上げて 少し橙色に染まっていった
それにはもはやかつての光はなく 色も影に近づいていた
男の子は近くに寄ってきて その花を見つめた
ようやく ここまで来た やっとここまできた
そして羊を撫でた
よくここまで花をだいじに持ってきてくれたね
もふもふえらいぞー
男の子は満面の笑みを浮かべた
そして 右手にある 獣のような鋭い爪で 羊の腹を切り裂いた