第6話-3:はじまりのいえと いろのついたはなのみち 緑色

男の子は鼻歌交じりに進んでいくが 二人は後ろ髪を引かれるような感じでいた
しかし 戻ったところでどうすることもできず 事実その場にいて何も言うことができなかった
ああ もしその方がここにいたのなら なんとおことばをかけられるのか
羊は下を向いて そんなことを思っていた

おー 光が差し込んでる 外に出るのかな?
男の子が声を上げた
二人は前を向いた
岩の切れ目から 光が漏れ出ていた
そこから風が流れ 温かい香りが男の子や二人を包んだ
いいかおり ぼく 先に行ってみてくるね
男の子は抑えきれなくなって 走り出していった
二人もそれを見て小走りであとを追いかけて行った

岩の切れ目をくぐりぬけると 少し開けた場所に出た
木が生えており 光に満ちていたが 日の光ではなかった
男の子は 近くの壁を撫でながら言った
これ 岩が光ってるのかな なんだかふしぎ
羊たちもよく見てみると 岩によって光ってあたりを照らしている部分と そうでない部分があった
岩の性質なのか なにかがついているのか ただそう見えるだけなのかはわからなかったが いままでと違う場所に出たのは間違いなかった

男の子はあっちへかけて木を見上げたり こっちへいって岩を持ち上げてみたり せわしなく動いては 笑顔を浮かべていた
ここは 男の子がいままでいたところではなく 新しいものに満ちていたので
新鮮だったのだろう と羊は思った
すると 女の子が言った
なんだか 歌声が聞こえてくる なんだろう
羊も耳を澄ませてみた
目を閉じると 確かに遠くから人の声がなにかを歌っているように感じた
男の子もそれを聞き取ったようで こちらへ向いて言った
なにがあるか 見に行こう
一行は 声の主を見に行くことにした

行ってみると そこには切り株の上に立って楽器を手に歌う人がいた
周りには その歌を聴くために いろんな獣が集まっていた
彼らはみな 耳を澄ませ その歌声に聴き入っていた

しばらく歌と演奏は続き それが終わると 歌い人はカバンからパンを取り出して 割いて言った
みんな 食事の時間だよ これを食べていきなさい
すると 獣たちはいっせいに近づいてきたが みな列を作り 順に食事を受け取っていた
そしてみんなに配り終えると 歌い人は少女たちに気付き 声をかけてきた
これは珍しい 人に会うとは思わなかったよ
ここにも ぼく以外に人がいたんだね

男の子は言った
歌 上手だね でも なんだか悲しそうな詩だったような
それを聞いた歌い人は 少し顔を曇らせたが 少し迷った後語りだした
ぼくはね ひとに施すのが好きなんだ それが生きがいだと思ってる
こうしていろんなところをまわって 歌と演奏を届けて パンを分けてあげて
心と体を満たしてあげるんだ
満足そうにして帰っていく彼らを見るのが とてもうれしくてね

でも 本当にこれでいいのかわからないときがあるんだ
自分勝手にふるまって ひとを満たしているつもりになっているだけではないか
本当は自分だけが 満たされているだけなのではないか
本当はみんなは満足していないのではないか ってね
そのことばが心を突き刺して むなしくなってしまうんだよ
ぼくは 好きな人すら守れなかったのだから

男の子は言った
そんなの 自分のためにやっているって 胸を張っていればいいじゃん
どんな思いでやっているかなんて ひとが気にするわけないよ
だって ひとには思いを汲みだすことなんでできないんだから
羊はそれを聞いて 違うと言いたかったが
なんといえばいいのかわからず めえ とだけ鳴いた

あるところに 歌を歌う青年がいた
青年は歌うことが大好きで 心から喜びをもってそれをしていた
それを聞くものは 心から安らぎ 迷っているものも 暗闇が払われ目が開かれていった
青年には歌しかなかったが それを聞いて元気づけられたものたちは お礼にと食事や着るものを渡すようになった
青年はそれに感謝し それを持って各地を巡り 歌を伴って施しをするようになった
それは 父がそのようにしていたのを見ていたからであり
自分もそうなりたいと 切に願っていたからであった

かつて青年がいたところでも 施しをして回っていたが
そこに住むものたちは彼を受け入れなかった
青年は それでも施すことを願ったが 彼らは拒み続け とうとう殺そうとするまでになった
青年は死の淵をさまようまでになったが 目を覚ますと この場所に寝転がっていた
そのときに この歌 幼いころに母が歌ってくれた歌を歌うようになった

しかし 彼のうちには 偽善という刃があった
それは 自らを傷つけるだけでなく 外のものにも危害を及ぼす剣であった
青年は それを知っているために 自分だけで受け止めようともがいていた
それは 青年が本当に愛することをまだ知らないためであって 以前愛していたものが もう手の届かないところにまで離れてしまっているためであった

影は語った 自分のことだけを考えればいいと
青年はそれに耳を貸し 自分の思いに閉じこもる方へ目を向けた
それは 彼を呼ぶ声を遠ざけるのに十分なことであった

羊は思った
自分がよくしてもらったとき その人の愛をも同時に受け取っていた
本当の愛は ことばだけでなく すべてを通して閉じた心をほぐして温めてくれる
私を救ってくださった方がそうだったから

しかし 羊はことばを口にすることが出来ず またも めえ とだけ鳴いた
青年は自分の胸に手を当てて にっこりと笑った
ありがとうね 君たちに会えてよかったよ
お礼に とっておきの飲み物をあげるよ
これは新芽からとられた汁で おちゃ と言ったかな
男の子は 歌い人から飲み物の入った瓶を受け取った
中を覗き込むと それは緑色をしていた
男の子は言った
ねえ これにも花をつけてみるのはどうかな
羊はいまだにぐるぐると回る思考の中で行き詰っていた
少女は羊に乗っている花をとって 瓶の中の飲み物に花の根をつけてみた
すると花はそれを吸い上げ 花の色が緑色に少し染まった
そして 少し影が差したように見えた

男の子は それを見て喜んだ
もう少しかな? まだ色が必要かな?
こうして染まっていくのを見るのが楽しみなんだー
そういって笑った

男の子と少女と羊は 青年に別れを告げて 木の中を進んでいった
花につける色を探しに行くために