第6話-2:はじまりのいえと いろのついたはなのみち 青色

羊たちは 男の子を先頭にして どんどん進んでいった
すると 開けたところに出た
下は水浸しで 天井も水で覆われた 不思議なところだった
羊たちは そこを見渡しながら進んでいくと 花の光が少し強く光り 全体が照らされた
そこで初めて 奥に誰かがいることに一行は気付いた

そこは 上から下まで 淡い青の水が流れ この空間を巡っていた
まるで大空のように 透き通ったような色で 羊たちはまるで飛んでいるような気持ちになった
少女は 奥で泣いている人のところへ行き 声をかけた
あなたはどうして泣いているの? 大丈夫?
その人は顔を上げて少女を見た
その人は 少女よりも少し年を重ねたように見える女性だった
その人は言った
私の愛する人が 私のせいで死んでしまったのです
私の心は折れて 支えもなく こうして泣き続けているのです

その女性の近くには 横たわっている男性がいた
その人は剣を腰に帯びて 頭には冠があった
そして 女性をよく見ると 足がひれのようになっていた
これはいったいどういうことなのか

羊は めえ と鳴いた
女性はみんなが足の方を見ているのに気づき 答えていった
私は 汚れたものとして人々からつまはじきにされ いつも水の波際に住んでいました
食べるものは水の中に住む魚を得ることが出来ましたので ことを得ましたが
誰とも会うことを許されず 私は一人ぼっちでいました
そしてある時 この方にであったのです
この方は 長い間水につかっていたせいで 冷えてしまった足を温めてくださり また 手を伸ばしても届かない陸の食べ物を食べさせてくださいました
毎日私のところへ来てくださり 日常の話を聞かせてくださり 私の心を楽しませてくださいました
私はこの男性に心を惹かれ この身をゆだねたいと思うようになりました
しかし それは許されぬこと 汚れた身では いまこうして施しを受けていることすら 禁じられているのに
さらに願うことなど 到底かなうことではありませんでした
それにもかかわらず 男性は 私の気持ちに応えようと 様々なことをしてくださいました
私の心は 一層男性に傾き 日々締め付けられるような それでいて心地よいようなものが続いていました

ある日 私と男性が会っているところを ほかの人に見られ それを王のところへ告げるものがいたのです
王は男性が私と会うことを許しませんでしたが
男性はそれを拒み 自らの身分を捨ててでも 私とともにいると言われました
この方は 王の息子であり 王子だったのです
男性はすべてを捨て 私を連れ出して遠くのところで二人きりで過ごそうと言ってくださいました
しかし 民もそれに反対し とうとう男性を縛り上げて 水の中へ落としてしまったのです
男性は息もできず やがて力尽きてしまったのです
私が気づいたときには もう遅く 体は冷たくなっていました
私はせめてもの償いにと 縛り上げているものをほどきましたが そこで心は折れ こうして泣くに至ったのです

それを聞き 羊と少女はことばを失った
愛する人を失った女性を どう慰めればいいのか 二人にはわからなかった

羊は めえ と鳴いて 男性を背負い 女性を連れて 水の上ではなく 岸辺に男性を上げて その近くに女性を導いた
水の中よりも 朽ちるのが遅くなるかもしれないと思ったからであった
男の子は 女性に話しかけた
だいじな人が死んじゃって 悲しいね
でも大丈夫 同じように死んじゃったら 君もまたこの人と会うことが出来るから
それまでの辛抱だよ
また会ったときに 何を話そうかを考えてみれば その苦しみの時もすぐに去ってしまうよ
そうするのはどうかな?
男の子は女性に笑顔を向けた
女性はそれを見て 少しだけ笑って見せた
ありがとう 慰めてくれて
そうね いつか終わるいのちですもの
そのときが来たら なにをお話しするか 考えて過ごしてみるわ
どうせ ここには食べ物となる魚もいないし すぐにおなかも減って 力もなくなっちゃうだろうから
そのときまで この人と一緒に…

男の子は 羊の方を見て 天井を指さした
見て こんなにきれいな水色だよ
ここの水も 花の色になるかもしれない
花を水につけてみようよ

羊はうなずいて 花の根を水につけた
すると 花は水を吸い上げ 少し水色に染まっていった
男の子は それを見て喜び 飛び跳ねてみせた
この調子で どんどんいってみよー
一行は 女性たちを置いて もっと奥へ進んでいった

あるところに 一国の王子がいた
王子は親にも周りにも愛されて育ち ぐんぐんと大きくなっていき 国のことを考える人になっていった
王子が大きくなったころ 国をききんが襲い 作物が取れなくなっていた
しかし 王子は王に相談して 国の倉庫を開き 貧しい人々が飢えてしまうことにならないように 施しをして 自らもその働きを促すために 国中を駆け巡った
人々は彼を尊敬し 敬意を払っていた
王も彼を認め 働きを支持していた
王子はその働きの中で ひとりの女性に出会った
その女性は 普通なら 汚れている人 と呼ばれる状態にあったが 王子の目にはとても美しく映り どんな宝石よりも輝いて見えた
王子はその人が困っているのに気づき 働きの合間をぬって女性に会って 施しをした
その中で 彼は汚れているものもそうでないものも 皆同じであるということを知った
彼の中に 本当の愛が芽生えた
王子が働きを続けているとき それをねたむものがいた
貧しい人々を虐げ 不正の利を貪るもの ききんを商売のチャンスととらえて 値段を釣り上げたり 穀物を出し渋って市場の価値を上げようとしている人たちだった
その人たちは いつしか王子を殺そうと画策するようになり 影で王子をひっそりと狙うようになっていった
王はそれに気づき 唯一一人の時間になる 女性と出会うことをやめるように言った
しかし王子は 言った
一人の人 自分が愛する人を救えないのなら どうしてほかの者 大勢の者たちを救えましょうか
王子は それからも女性と会い 懸命に施しを続け この身分を捨ててでも 女性と暮らしたいと思うようになった
それを知った妬む者たちは 王子を付け狙い やがてその肩に手をかけ 縛り上げた
その者たちは 王子をそのまま海に投げ入れ 殺してしまった
王子が殺されたことを聞いた王は 深く悲しみ どうにかしてその体を得たいと人々に言った
王はこの国を作り また人々や王子を作ったものだったからだ
いのちを作った方は その体に力を与えて再び立たせることができた
しかし 王子の体は呪いに満ちた海の底
王の手は届きそうになかった
王は願って言った
どうか あの女性 王子が愛していたものが わが子の体を引き上げてくれるように
その願いは 海の中へ潜っていったが それは儚く いまにも泡となって消えてしまいそうだった