第6話-1:はじまりのいえと いろのついたはなのみち 藍色

しばらく歩くと 岩の裂け目があらわれた
男の子はそれを指して言った
ここから洞窟に入るんだー
羊たちは そこから入ろうとしたが 灯りがないことに気付いた
木を切ってきたとしても 火をつけることができないので どうしたものかと考えた
男の子はそんなこともお構いなしに 岩の裂け目に入っていった
羊たちはそれ気づき 慌てて追いかけた
すると 羊が背負っていた花は光を発してあたりを照らしていた
男の子は羊たちの方を向いて
どうしたの? 早く行こうよー
と二人に言った

中に入っていくと ひとりの人影が 座り込んでいた
近づいてみると 漁師の格好をした人であった
少女は その人に話しかけた
どうしてこんなところに座っているの?
漁師は答えた
私は ここで釣りをしていたんだ
何年も狙っていた 大物を釣りに
しかし そいつは逃げてしまった どうやらここの池は どこかにつながっていたようでね
それで 途方に暮れていたんだ
少女は漁師に言った
それは そんなに大切なものなの?
漁師は答えた
そうだよ あいつは俺の生きがいだった
あれを釣るのが楽しみで 毎日生きていたんだ
しかし あいつはもうここにはいない
夢がこの手の指から滑り落ち
もう拾うことのできないくらいに深いところまで落ちたなら
どうしてそれを救い上げることができようか

羊は その人の近くへ行き 慰めようと寄り添った
すると 背負っていた花が少し強く光った

光に照らされて 漁師がいたところとその周囲が照らされた
そこは深い青に染まった池だった
光に反応して 池にいた魚たちが 漁師たちのところへ近づいてきた
男の子は言った
君の言う大物じゃなくて この魚たちでもいいんじゃないかな
だって 君は漁師なんだから 魚ならいっぱいいるんだから

漁師は池の中を見た
そこには いままで見たことのなかった魚たち
大物を狙っていた故に 見逃していたものたちが そこにいた
そのものたちは 光を反射してきらきらと輝いていた
漁師は言った
そうだな こいつらでも釣って生きていくことにするよ
独りぼっちでどうすることもできなかったけど 君たちと話せて また踏み出すことができそうだよ
ありがとう
漁師は立ち上がって 竿を振り 池の方へ釣り糸を垂らした

男の子は羊に言った
さあ その花に池の水を吸わせよう そして その花に色を付けよう
羊はうなずいて 花の根を池の水につけた
花は水を吸い上げ 青色に少し染まった
男の子はそれを見て満足そうに笑っていった
もっと この洞窟の奥へ行ってみよう
他にもなにかあるかもしれないから
少女と羊はうなずいて 男の子の後についていき 奥へ進んでいった

あるところに生まれながらにして漁に召されたものがいた
その人は生まれてから片時も釣り竿を離さないほどに 釣りのことが好きであった
そして いつも父から釣りのことを聞いて育った
父は言った
ここには わたしもまだ釣り上げたことのない 大きな魚がいるんだよ
わたしは それを釣るのを あなたに託したいと思う
わたしは釣り方や捌き方を教えて あなたを育ててきた
もうあなたは魚を釣ることができるまでに成長したから
これからは その竿を使って釣りをしなさい
そして あの大物を釣り上げてみなさい
そして 彼の父はいなくなってしまった
もう父に会うことはできなくなったが 彼は悲しいとは思わず
むしろ いつかまた会えるときまでに大物を釣り上げて喜ばせようと思った
彼は毎日大物を観察し その動きや反応を学んでいき 竿を振って大物を釣るための技術や知恵を養っていった
ある日 彼が池を見てみると 大物はいなくなっていた
もしかしたら隠れているだけかもと思って待っていたが その魚は一向にあらわれなかった
(大物である魚は 子どもたちを養うために 影に潜んで暮らすようになっていた)
彼は思った
きっとこの池はどこかに通じていて そこから外に出て行ったんだと
もう自分は その魚を釣り上げることはできなくなったんだと
そこへ 人々がやってきて 彼の目をほかのところへ向けさせた
彼は他にも魚がいることに気付き それらを見てそれを釣り上げるのでもいいと考えた
人々は去っていき 彼はそれら ほかの魚を釣ることを考え始めた
そうして 彼の心は 大物である魚から離れていきそうになった