ある商人の話

ある商人がいた
自分の商会を運営し 自分でも商売をして その国一番の富豪であった
彼の求める欲求は とどまることを知らず
富の上にさらに富を築くため
知識 人脈すべてを使い 稼ぐことをしていた

しかし 彼は 満たされなかった
どれほど富みを積もうと
どれほど人脈を広げ 望みのものを手に入れようと
求めたいと思う心の裏には ぽっかりと穴が空き 虚しさだけがあった

ある日 自分が買い付けに行った場所から 帰る途中
嵐にあってしまった
急いでいたこともあり 雨の中を突き進む
そこへ 土砂崩れが起こり 商人の一行は巻き込まれた
そのまま押し流され もうどうしようもなく ただ彼は祈った
初めて 神に祈った

彼は 祈って初めて気づいた
自分の人生は なんだったのか
何のために むなしいものをかき集め それを捌いていたのか
今までの行いを 心から悔い 長い間出なかった涙がこぼれた

顔をあげなさい 恐れるな わたしがついているから

彼は我に返り 顔を上げた
いつの間にか 流され 川の岸辺に打ち上げられていた
そこは 向かう先の町に ほど近いところだった

彼の一行は 誰一人欠けることなく 生還した
そして 彼は町へ戻ると 自分の体験したことを証した
商人だった彼は 一切の持ち物を売り払い 必要のある人々に施し また 指導した

彼には 富や以前の人脈はなくなり 貧しさを知ることになったが
彼はいつも満たされた
どれほど働いても 知ることができなかった光に 満たされているからである

あなたがたはどう思うか。ある人に百匹の羊があり、
その中の一匹が迷い出たとすれば、九十九匹を山に残しておいて、
その迷い出ている羊を捜しに出かけないであろうか。
もしそれを見つけたなら、よく聞きなさい、迷わないでいる
九十九匹のためよりも、むしろその一匹のために喜ぶであろう。
マタイによる福音書 18:12-13