暗く汚れた路地の道を挟んだ反対側で
汚いものから目を背けたお金持ちたちが
煌びやかな仮面舞踏会を毎晩のように楽しむ…

そんな街に この黒猫は生まれました
ある裕福なおうちで生まれましたが
真っ黒だったために忌み嫌われていました
今日も 飼い主は黒猫にご飯を与えずに
仮面舞踏会に遊びに行ってしまいました

ですが 神様はこの黒猫を特別に愛されました

黒猫のお世話をする人を
神様は特別に祝福されたのです

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黒猫は おうちでご飯が貰えないので
近所でよく盗みをしていました
近所の人は 黒猫がどの家の猫かを知っていたので
飼い主の元には苦情がたくさん来ました
飼い主は お前のせいで恥をかくと言って
黒猫を酷くいじめました
子どもの内は我慢するしかありませんでしたが
大きくなり 狩りも出来るようになった頃に
黒猫はその家から逃げ出しました
黒猫がいなくなると裕福だった家は
あっという間に借金だらけの家になりました
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黒猫が一人で歩いていると
幾人かの人がご飯をくれました
黒猫にご飯をくれた人はみんな祝福されたので
人々は黒猫に 家に来るように誘いました
ですが 黒猫は誰の家にもついていきませんでした
実は最初に1度だけ 誘われるままに
家についていったことがあったのですが
祝福の黒猫だと気付いていたその人は
黒猫を檻に閉じ込めようとしたのです
それ以来 黒猫は決して
人の家にはついていきませんでした
黒猫は いつも寒空の下で
家の窓の光を眺めながら眠りました
神様は 黒猫を夜露や野良犬から守り
決して傷付けないようにしてくださいました
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ですがある時 一人の男の子が
黒猫を見つけて声をかけてきました
どうしていつも外で一人でいるの?
黒猫は答えました
その方が安全だからだよ
男の子は言いました
そんなのおかしいよ うちに来てよ
絶対に僕の家の方が暖かいし安全だよ
黒猫は 断ろうとしたのですが
男の子は強引に黒猫を連れて帰りました
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その家にはお母さんがいませんでした
男の子が小さなとき 病気で亡くなったのです
お母さんは編み物が好きで
編みかけのセーターと毛糸が何年も
かごの中に入ったままになっていました
お父さんは黒猫に そのかごをくれました
捨てられずにいた編みかけのセーターが
猫のお布団として役に立ったと喜んでくれました
黒猫はそっと かごの中に入りました
黒猫にとって 家の中は
いつもいじめられていた場所なので
とても緊張をしていましたが
編みかけのセーターに詰まっていた
お母さんの愛が 黒猫を包んだ時
とても暖かくて 幸せな気持ちになり
生まれて初めて 何の心配もなく
ゆっくりと朝まで眠ることが出来ました
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その日を境に 男の子の家には
不思議な恵みがたくさん降り注ぎはじめました
家はみるみるうちに裕福になり
綺麗で大きなおうちに引っ越すことになりました
黒猫は 大きなおうちに行きたくなかったので
引っ越しの前日 こっそりその家を逃げ出しました
ですが 神様はお父さんと子どもから
祝福を取り去ることはしませんでした
黒猫に一度も悪いことをせず
良いことしかしなかったからでした
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その後 暫くは街で過ごしていた黒猫ですが
外から来た猫に「神様の森」の話を聞きました
甘くておいしい水が流れる川があって
その脇に生えている木には
美味しい木の実がたくさん実っていて
毎日好きなだけ食べることが出来るんだよ
神様の周りにはたくさんの動物がいて
いつも楽しくお茶会を開いているよ
黒猫はそこに行ってみたいと思いました
もし住むことが出来なかったとしても
動物たちのお茶会に参加してみたいと思いました
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色々な動物に話を聞きながら探すうちに
黒猫はついに 神様の森の入り口を見つけました
ですが黒猫は ふと立ち止まりました
自分は小さなころ たくさん盗みをしたし
大切にしてくれた人を裏切って逃げてしまった
こんな自分が神様の森なんかに
入れてもらえるのだろうか
黒猫が 入り口の前で座り込んでいると
何をしているんだい お入り?と
目に見えない何かが黒猫を引っ張りました
黒猫はびっくりするやら恐ろしいやらで
かたく目を閉じて 引かれるままに歩きました
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しばらく歩いていると 引っ張っていた何かが
もう着いたから目を開けてご覧 と言いました
すると 目の前には大きな木が生えており
扉があって 木の中は家になっているようでした
周りを見回すと たくさんの木や草花があり
家の前には切り株で出来たテーブルと椅子がありました
黒猫を引っ張っていたのは神様でした
神様は言いました
今日からここがあなたの家だよ
ここは 機織りの家で
毛糸で編んだ編み物もたくさんある
あなたは毛糸で愛を学んだから
この家の子にすることにしたんだよ
ここにたくさんの人や動物を招いてお茶会をしよう
神様は黒猫に そう言ってくださいました
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その日から黒猫は 神様の家の子になりました
黒猫は神様と一緒に 幸せに暮らしましたが
お茶会の招待状を配るため たまに街に戻ります
帰る場所があるので 人から
家に来るように誘われることもありません
男の子とお父さんを探すために
嫌いだった裕福な家にも行くようになりました
黒猫は 街のことも以前より好きになりました